夜空には、動物や人物、道具など、さまざまな姿を思い描いた星座があります。
ところが、秋の夜空には、ちょっと不思議な姿をした星座があるのをご存じでしょうか。
頭と前半身は山羊なのに、後ろ半分は魚。
陸に住む動物と、水の中を泳ぐ魚が、ひとつの体につながっているのです。
その星座の名前は、やぎ座。
いったい、どうして山羊と魚が一緒になったのでしょう。
今回は、秋の星空を散歩しながら、やぎ座の見つけ方と、古代から伝わる不思議な物語をたどってみましょう。
秋の南の空に、山羊と魚を探そう
やぎ座は、黄道十二星座のひとつです。
黄道十二星座といえば、誕生日占いでおなじみですね。
でも、夜空にある実際のやぎ座を探してみると、占いのイメージとは少し違った印象を受けるかもしれません。
星々はそれほど明るくなく、山羊の頭や魚の尾が、すぐに分かるわけでもありません。
ペガスス座の詳細は、以前の投稿「秋の四辺形 ペガスス座」を参照ください。
まずは、ペガスス座の四辺形から
秋の星空を探すなら、最初の目印はペガスス座の大きな四辺形です。
空の高いところに見つけやすい、四つの星がつくる大きな四角形。秋の星空を案内してくれる、頼もしい目印です。四辺形を見つけたら、そこから南の空へ視線を移してみましょう。
その途中では、うお座やみずがめ座など、秋の星座たちをたどることができます。
ただし、やぎ座はペガスス座のすぐ隣にあるわけではありません。
やぎ座の見つけやすい時期は、秋。
10月、11月ころの南~南西方向の低い位置です。
星を線で結んでみると……
やぎ座の星々を星図で確認すると、山羊の上半身と魚の尾を組み合わせた姿が描かれています。
けれど、実際の空では、星座絵のような姿がそのまま見えるわけではありません。
星座は、離れた位置にある星々を人間が線で結び、姿を想像したものです。
まずは明るい星を目印にして、少しずつ星の並びを確かめてみましょう。
肉眼で探すのが難しいときには、星座早見盤や星空アプリを使ってもかまいません。
双眼鏡があれば、星座の周囲に散らばる星々を眺める楽しみも広がります。
星の数が少ない星座だからこそ、見つけたときには、ちょっとうれしくなるものです。
なぜ、山羊なのに魚のしっぽ?
やぎ座の不思議な姿には、古代から伝わる長い歴史があります。
実は、山羊と魚を組み合わせた姿は、ギリシャ神話だけから生まれたものではありません。
古代メソポタミアの文化にも、山羊と魚を組み合わせた姿が見られます。
メソポタミアに伝わる、神聖な山羊魚
山羊の頭と前半身に、魚の尾。やぎ座の不思議な姿は、ギリシャ神話だけから生まれたものではありません。
はるか昔、メソポタミアでも、山羊と魚が一つになった「山羊魚(ヤギウオ)」が描かれていました。
この生き物は、エンキ(アッカド語ではエア)という神に結びつく聖獣です。
エンキは、水や知恵、魔術などをつかさどる神として知られています。
水は、命を育むもの。そして知恵は、人々が暮らしを築くための大切な力です。
山羊魚は、そんな神の力を象徴する存在だったのでしょう。
もちろん、古代の人々が山羊魚にどのような思いを込めていたのか、すべてが分かっているわけではありません。それでも、夜空に見える星々をただの光の点として眺めるのではなく、神々や生き物の姿を重ねていたことが伝わってきます。
やがて、この山羊魚の姿は、現在のやぎ座につながる古い星座の伝統の一部となっていきました。
では、ギリシャ神話では、なぜ山羊の姿に魚の尾がついているのでしょうか。その答えを探すために、今度は牧神パンの物語をのぞいてみましょう。
怪物テュポンから逃げた牧神パン
やぎ座に結びつけられている神話のひとつが、牧神パンの物語です。
パンは、山羊の角や脚を持つ姿で描かれる神です。羊飼いや家畜、野山などに関係する存在として知られています。
ある物語では、神々のもとに恐ろしい怪物テュポンが現れます。
突然の危機に、神々は動物などの姿に変わって逃げようとしました。
パンも逃げようとして、川に飛び込みます。
ところが、あわてて変身しようとしたためでしょうか。水につかった下半身は魚の姿に、上半身は山羊の姿になったと伝えられています。
こうして生まれたのが、山羊と魚がひとつになった不思議な姿です。
この姿が星座になったというのが、やぎ座に伝わるギリシャ神話のひとつです。
うお座にも、魚に変身した神々の物語がある
ここで、以前紹介したうお座のことを思い出してみましょう。
うお座にも、ギリシャ神話に結びつけられた物語があります。
よく知られているのは、美の女神アフロディーテと、その子エロスが、怪物テュポンから逃れるために魚の姿になったという伝承です。
ふたりは離れ離れにならないよう、互いをひもで結んだ姿で表されることがあります。
この物語が、うお座の二匹の魚の姿に結びつけられているのです。
一方、やぎ座の物語では、牧神パンが逃げるために魚の姿を取り入れます。
どちらの物語にも、怪物テュポンと、危機から逃れるための変身という共通点があります。
ただし、うお座とやぎ座の神話は、同じ出来事を描いたひとつの物語ではありません。それぞれ別の伝承として受け継がれてきたものです。
星空の中で見れば、うお座は二匹の魚、やぎ座は山羊と魚がひとつになった姿。
同じ秋の星空に、魚にまつわる異なる物語が並んでいるのです。
こうして星座をひとつずつ訪ねてみると、夜空は星の集まりであるだけでなく、古代の人々が伝えてきた物語の世界にも見えてきます。
やぎ座の星を見つけてみよう
神話を知ったら、今度は実際の星空でやぎ座を探してみましょう。

四辺形のアンドロメダ座側の星(北東)を出発点にして、対角に南西方向のペガススの馬の首の方の星から、さらに伸ばしていくと「やぎ座」付近の星に当たります。
やぎ座は暗い星々で構成されている星座なので、出来るだけ光害の無い暗い場所での観察が良いです。
また、みなみのうお座の1等星フォーマルハウトは見つけ易いので、そこから右(西)方向に目をやるという方法でもやぎ座を見つけられます。
※図の方角はこのまま空を見上げた時の方向です。
やぎ座の星の中で覚えておきたいのは、アルゲディ、ダビー、デネブ・アルゲディと呼ばれる星です。

デネブ・アルゲディは、やぎ座の尾のあたりに位置する星です。名前にも、やぎの尾を意味する言葉が含まれています。
一方、ダビーは、やぎ座の頭のあたりにある星です。
ダビーの直ぐ近くにアルゲディというα星があります。
アルゲディは二重星として知られ、双眼鏡を向けて眺めてみるのも楽しい星です。
ただし、星の名前だけを頼りに、夜空で位置を判断するのは難しいかもしれません。まずは星図で場所を確かめ、実際の星の並びと見比べてみましょう。
頭のあたりにあるアルゲディやダビーから、尾のあたりにあるデネブ・アルゲディへと星をたどり、その間にある星々も結んでみてください。山羊の頭から魚の尾へと続く、少し不思議な姿が見えてくるはずです。
デネブ・アルゲディとダビーから星々を繋いで逆三角形をイメージ出来れば、それがやぎ座です。
やぎ座は、全天でも明るい星が集まる星座ではありません。
街明かりの強い場所では、星の並びを見つけにくいことがあります。
そんなときは、空が暗く、南から南西側に建物などが無く視界が開けた場所を選んで探してみましょう。
双眼鏡を使う場合は、まず肉眼で星座のおおよその位置を確かめてから、周囲の星を眺めてみてください。
星座を探す楽しみは、明るい星を見つけることだけではありません。暗い星をひとつずつたどり、星図と照らし合わせて、少しずつ星座の姿を理解していくこともまた楽しみです。
まとめ:秋の夜空でさがしてみよう
山羊の頭に魚の尾。少し不思議な姿をした、やぎ座。
明るい星が少なく、見つけるのは簡単ではありませんが、ペガスス座の四辺形を目印に南の空を探してみてください。
星図を片手に、アルゲディやデネブ・アルゲディをたどっていけば、星の並びが少しずつ見えてくるはずです。
神話を知ったあとに眺める星空は、いつもと少し違って見えるかもしれません。
今夜、空が晴れていたら、あなたもやぎ座を探してみませんか?
※途中に出てきた「うお座」の話にも興味を持たれましたら、下記もぜひご覧ください。



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